らしくない村上春樹:辺境・近境2009/09/24 21:08

記憶が正しければ、村上春樹を読み始めたきっかけは”シドニー”という、シドニーオリンピック観戦記、というか、シドニー滞在記で、一見何でもない所やモノを書かせたらこの人は絶品だなあ、と感心したのでした。

以来、村上春樹の旅行記・滞在記の類は楽しみに読んできていて、どれも期待通りに面白く読んでいるのですが、この”辺境・近境”という作品には少々の違和感を感じました。

これはニューヨーク(のはずれのイースト・ハンプトン)、瀬戸内海の無人島、メキシコ、香川県(の、うどん)、ノモンハン、アメリカ横断、神戸、と、魅力的な題材を扱った旅行記であり、滞在記です。

勝手な推測ですが、題材が魅力的なので、どうしてもその”魅力”に引きずられてしまい、いつもの飄々とした筆致が生かせなかったのではないか。
どれも、題材となる場所に芯になるものがあって、それにどう相対するのか、といったことがどうしてもメインになってしまい、お気楽に楽しめるようなものにはならなかった。
それはそれで、いつもの滞在記に比べれば質がはるかに高い、ということなのかもしれない、という点では読み手の私の問題かもしれません。
が、私にとっては”らしくない”村上春樹の滞在記なのでした。

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