世代論はどうでもいい:ロスジェネの逆襲2012/11/04 13:44

たまたま置いてあったので読んでみました。
どうやら三部作らしく、これはその第三弾にあたるようなので、読み方としては正しくないのでしょうが、単独作として読んで十分に面白かった。
池井戸潤作の「ロスジェネの逆襲」です。

子会社に飛ばされたバブル世代の主人公が親会社に対して戦いを挑み・・
ということなのですが、ま、そのあたりも面白かったのですが、主人公が勤めるのは銀行/証券会社なのですが、実際のバトルの舞台となるのはバブリーなIT企業間の戦いになっています。

この幾つか登場するIT企業がそれぞれ独特な起業家に率いられたそれぞれ独特な企業で、このあたりの描き方が、いかにもありそう、というか、何年か前のITバブルでの興亡を思い起こさせて実に面白かった。
「ライブドア事件」やら「ネクストイノベーション事件」やらを思い出してしまいました。

この本の題名に「ロスジェネ」という記載があり、作品中でもバブル世代とロスジェネ世代間の相克などが出てきますが、このあたりの世代論は実はあまり面白くなくて、そんな世代論なんてものはなくってもこういうバトルというのは何時の世にもあったし、これからだってあるに違いない、と思いました。
でも、ま、そんな世代論は抜きにしても、こういうビジネスバトル物は好きだ、ということもありますが、一気に読ませる読み物に仕上がっています。

さて、こうなったら三部作を読まなくては。

ホーギーのウォーショースキー化を止めろ!2011/04/03 10:22

最近のお楽しみは、デイビッド・ハンドラー、ハーラン・コーベン、ローレンス・ブロックといったあたりなのですが、今回の作品はデイビッド・ハンドラーのゴーストライター、スチュアート・ホーグものの”傷心”です。

実は、以前、スー・グラフトンとサラ・パレツキーが好きだった時期があって、でも、パレツキーの主人公のV.I. ウォーショースキーがどんどん親族の争いから出なくなってきて、本人も巻き込んだどろどろした関係が鬱陶しくなって離れてきてしまった経緯があります。
シリーズ物だと、どうもそのうち親族を巻き込んだものにかかりがちで、どうやらそういう時点でそのシリーズは魅力が薄れてくる、というパターンがありそうで、注意が必要です。
(大丈夫か?キンジー・ミルホーン!)

さてさて、この軽快なおしゃべりゴーストのホーグですが、今回はちょっと趣が違っています。
何が違うって、田舎町にメリリーと一緒に引っ込んでしまっているところから始まります。そして、何と言っても大きいのがゴーストの対象。
これまではコメディアンやらミュージシャンやら映画監督やら作家やら、大いに一癖も二癖もある人物がゴーストの対象で、概ね大いにいやらしい人物で、でもその一方、そこまでになる人物らしい魅力もしっかり描かれていて、そのバランスの妙が一つの魅力でした。

ところが今回は何の実績もない小娘!

若い頃に世話になった人の娘、ということでゴーストを引き受ける、という設定で、ここがそもそも弱いです。
ですので、いつもの自己紹介に使われる、”ホーギー””ホーギー・カーマイケルの?””いや、チーズステーキの方の”というセリフも出てきません。
ルルは大活躍するのですが・・

ということで、この路線を走ってほしくない、ウォーショースキー化は止めて欲しい・・と、密かに心配になる一作でした。

大河ミステリー!?オーサ・ラーソン:黒い氷2010/12/25 17:41

ふと手に取った本です。
作者はスウェーデン人のようですが、アメリカの風潮がかの地にまで伝染したか、元は弁護士だそうで。

で、何も分からずに読み始めたのですが、凍結した湖で女性の死体が発見される、それを担当する女性警部、難航する捜査に強力なサポートをする過去のある女性弁護士、そして、被害者の関係者であるスウェーデンの若きカリスマ経営者・・こうして書いてみると女性比率が高いですが、それはともかくとして、とにかく登場人物一人ひとりの過去のエピソードが満載で、現在の事件の描写よりも過去のエピソードの描写のほうが丹念で長く、一体これは何なんだ、と思ってしまいました。

後になって(実はあとがきを読んで)ようやく分かったのですが、これはシリーズ物なのでした。そして、シリーズ第三作なんですね。そのため、過去ある登場人物がその過去を踏まえて動いているわけで、いきなり第三作から読み始めるような掟破りの読者にとっては親切な計らいなのかも知れませんが、読んでいる途中はちょっと参りました。これは何だか大河小説のミステリー版みたいだなあ、と思いながら読んでいたら、実にそうだった、ということで。

終盤、一気にダイナミックな展開になだれ込むのですが、ミステリーというよりもやはり大河小説として読むべきものでした。

表紙だけで買い!マージョリー・クォートン:牧羊犬シェップと困ったボス2010/12/23 08:34

もう、ボーダーコリー飼いにとっては、この表紙を見ただけで中身がなんであれ、ついつい買ってしまうに違いありません。
そして、読み進めるに連れて、ついつい頬が緩んでしまうに違いありません。

アイルランドの田舎町に住む牧羊犬のシェップと、そのボスを巡る物語なのですが、物語を語るのがこの牧羊犬のシェップです。
犬ですので、人間のすることが十分には理解出来ないところがあり、賢いパートナーのジェスに教えてもらってはいるのですが、ボスの息子のマーティンが首を痛めて病院で首にコルセットをしてもらったというのを聞いて、”マーティンは首輪をつけることになるんだそうだ。・・多分、引き綱も付けているかも、と僕は思った。”といった勘違いを沢山するわけです。

それでも、電話もないような田舎町で、短気だけれど何故か街じゃ人気者らしいボスと、働き者で牧羊犬の大会でも活躍するシェップが繰り広げる長閑ながらスリリングな日々がとても生き生きと描写されていて、実に楽しい読み物になっています。

う~ん、なスジャータ・マッシー:月殺人事件2010/12/18 08:57

魅力的な表紙!魅力的な題名!日系アメリカ人アンティーク・ディーラーのレイ・シムラが古都鎌倉で謎の殺人事件に巻き込まれる!というそそられるストーリー!
ので、思わず手に取って読んでみました。

う~ん・・・

あまりにストーリー展開が強引、というか、主人公がさっぱり生きていない、というか・・
日系とは言え、アメリカに生まれ育った”外国人”が見る日本、という新鮮な観点があり、それも怪しいフジヤマゲイシャガールの類ではないので、そこはなかなかに楽しめます。
が、それにしてもちょっとなあ、というレベルですね、残念ながら。
シリーズ化されているらしいので、作品が進むに連れて良くなっていることを期待しています。

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